梨田の気概
私は北海道日本ハムファイターズのファンである。北海道にプロ野球チームが来てくれたことから、有無を言わずにファンになった。チーム方針も素晴らしく、これからのプロスポーツの模範となるべきチームカラーであると思っている。ただし、私自身がドーム球場の閉塞感が性に合わないため、ほとんど観戦に行ったことはない。まあ、ドンちゃん騒ぎの応援にもついていけないのもあるが。
チーム作りをする上で、監督を含めた首脳陣の人選は重要である。チーム強化の方針に欠かすことのできない要素のひとつである。もちろん、優秀な選手を獲得することやドラフトなどで有望新人を発掘することも重要ではあるが、チームカラーに沿った選手育成をする上で指導者が持つ雰囲気やポテンシャル、そしてカリスマ性は必要不可欠な要素である。日本ハムは、北海道移転を機にトレイ・ヒルマン監督を迎え入れ、白井ヘッドコーチとの抜群の二人三脚でチームの礎を築いた。それを引き継ぐ形で、梨田監督が福良ヘッドコーチ等を率いて黄金期の外枠を作り上げようとしている。インフルエンザ禍による危機も、チーム全体の力で乗り切る姿勢に共感を憶えずにはいられない。
それほど愛すべきチームの監督が、「遅延行為」で退場となった。梨田監督自身、人生二度目の退場となった。先日、広島カープのマーティ・ブラウン監督が通算8度の退場処分を受けたが、それに発奮した選手が6点差をひっくり返して勝利を得た。ブラウン監督の退場試合の戦績は7勝1敗と抜群の勝率である。チームの起爆剤として利用しているのはアメリカ人監督ならではある。
大リーグの退場記録は桁違いである。7月24日、アトランタ・ブレーブスのボビー・コックス監督は今季3度目の退場処分となったが、これがなんと大リーグ通算146回目の退場であった。選手としてはヤンキースでの実働2年しかないが、監督業としては1978年からアトランタ・ブレーブス、1982年からトロント・ブルージェイズ、そして1990年から再びアトランタへ戻り現在に至っている。その間に最優秀監督賞を4度受賞している名監督であり、2007年には史上6人目の監督としての4,000試合を達成している。
大リーグの場合は、審判員の権威と尊厳が高く認識されていることから、監督はダッグアウトを出たときから「退場処分」を覚悟している。ルールブック上も、ストライク・ボールやアウト・セーフの判定に対して不満を表しただけで警告が発せられ、それでもダッグアウトから出てきた場合は、即刻試合から除くことが明記されている。
日本の場合は、抗議の内容を聞いた上で、抗議時間が5分間を超過した場合は「遅延行為」で退場処分とすることとなっている。日本ハムの梨田監督は、これに抵触したため退場処分となったが、監督自身も覚悟の上であったようである。
退場処分の引き金となったプレイに対するジャッジは、何とも日本らいしい判断があったように思われる。私自身が、リアルタイムでもリプレイでもプレイを見ていないため憶測の域を出ないが、場面および適用規則を整理すると、以下のとおりである。
6回無死1・2塁で打者・二岡選手は投手前にバントをした。この打球を処理しようとインフィールドへ動いた田上捕手が、打者走者である二岡選手と接触し転倒したため、飯塚球審がインターフェア(打者走者による守備妨害)を宣告し、打者走者である二岡選手を妨害によりアウトとし、走者を投手が投球時に占有していた塁に戻した。直前にもバントした小谷野選手と田上捕手が接触した後、田上捕手が打球処理をミスしたプレイがあり、それに対して秋山・ソフトバンク監督が抗議をしたことが伏線となっているように思われる。ここで適用されるべき野球規則では次のとおりであると、日本ハムは主張している。

【7.09(i)】走者が打球を処理しようとしている野手を避けなかったか、あるいは送球を故意に妨げた場合。【原注】 捕手が打球を処理しようとしているときに、捕手と一塁へ向かう打者走者とが接触した場合は、守備妨害も走塁妨害もなかったものとみなされて、何も宣告されない。打球を処理しようとしている野手による走塁妨害は、非常に悪質で乱暴な場合にだけ宣告されるべきである。たとえば、打球を処理しようとしているからといって、走者を故意につまずかせるようなことをすれば、オブストラクションが宣告される。

日本ハムの主張は、これにより守備妨害も走塁妨害も宣告されることはないと明確に書かれており、強いて妨害と採用するのであれば例外として「オブストラクション(走塁妨害)」であり、「インターフェア(守備妨害)」については言及されていない、ということである。

私は日本ハムファイターズのファンであるが、アマチュア野球ではあるが審判員のひとりでもある。
日本ハムの主張は、大原則が欠落している。この規則が記載されている項目【7.09】は「打者または走者によるインターフェア」である。つまり守備妨害について記載されている項目である。その中の例外が「捕手と打者走者が本塁付近で接触した場合はナッシング」という不思議なルールである。厳密にはどちらかの妨害であるのであろうが、実際には判断がつかないための「喧嘩両成敗」的なルールである。それでも、野手が打者または走者を明確に妨害したと判断できる場合は「オブストラクション」を宣告するということである。
つまり、打者走者と捕手を含む野手の衝突は「守備優先」の大原則が根底にある上で、本塁周辺だけは「喧嘩両成敗」だということであり、走者が明確に妨害された場合のみオブストラクションとなるということである。日本ハムの「インターフェアについて言及されていない」という解釈は、適用規則の【7.09】の大原則を棚に上げた主張であるといわざるを得ない。
数年前の日本シリーズでもバントした打者が捕手の動きに合わせるかのような動きで接触プレイがあり、二度目のプレイで球審が「インターフェア」のようなシグナルを出して大問題になったことがある。守備側の監督が納得せず、コミッショナーまでが説得に当たったことがあった。
野球のルールの中で何とも不思議な常識である【7.09原注】は、審判泣かせのルールであるといえる。それがゆえに、このプレイは「ナッシング」が無難なジャッジメントといえるのかもしれない。
しかし、球審をやったことがある人であれば、少なからず感じているであろう。バントした打者が、すぐに打者席から走り出すことせずに、捕手の動きに合わせるかのように動き出すことを感じているであろう。本塁周りでの接触は「ナッシング」と教えられているが、どうも「インターフェア(守備妨害)」の匂いがすると感じているのは、私だけではないであろう。どうせ、遅れて走り出すのであれば、捕手が完全に前に出てからでも良いはずなのに、どういうわけかタイミングが合うのである。
ベースボールでは、打者が打撃を終了した場合は、速やかに打者席を出るように教育されているが、日本で行われているのは「野球」である。ルールの隙間を利用して楽しむのが「野球」である。日本人は「ルールの隙間を利用して楽しむゲーム=野球」から脱却し、ベースボールへと進化できるのであろうか。それができなければ、「日本野球」が世界で認められ、尊敬されることは無いであろう。

最後にもう一度言おう。私は北海道日本ハムファイターズのファンである。梨田監督の気概は素晴らしいが、今一度考えていただきたい。
「ナッシングであることを十分に分かっているプレイが、何故守備妨害に見えたか」を考えていただきたい。

コメント

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山形 太郎
2009年10月22日18:29

 お世話になっております。先日の中学新人戦観戦での疑問について教えていただきたく思います。 投手のセットポジションからの投法についてであります。同一打者に対して通常のセット投法とクイック投法を織り交ぜてプレイしているのを見かけました。ランナーが無しの時も同様てありました。準決勝で公式審判員の方々でしたのでボークで無い事は判断したのですが、、、。 セットの場合のグラブの停止位置を変更した場合は確かボークのはずです。それから考えると何かしっくりしないのであります。ピッチャーの投球動作に合わせて本当に野手7人がシンクロナイズな守備動作をしていたり、攻撃時のタイムのかかった間合いでは各出塁ランナーは盗塁ダッシュのスタートを繰り返していたりととても鍛え上げられたチームの印象を強く受けました。 ファールボールさんはこの様なプレイを実際みておられるのでしょうか、プロで実践している選手はいますでしょうか?

ファウルボール
2009年11月12日12:50

いつも、いつもありがとうございます。なかなか更新できずに、心苦しく感じておりますが、審判への情熱はまったく衰えていません。人生の折り返し地点を回ってしまい、残りの日々をどのように過ごすかは、個人的には重要だと思っております。今後も、時間を見つけては更新していきますので、ご意見のほどよろしくお願いいたします。
さて、ご質問の件について考えてみましょう。
セットポジションをとった投手が、投球毎に通常のセット投法とクイック投法を適宜使い分けているとのことです。
まずは、野球規則の【8.01 正規の投球】を見てみますと、「投球姿勢にはワインドアップポジションと、セットポジションとの二つの正規のものがあり、どちらでも随時用いることができる」となっています。つまり、同一打者であろうとなかろうと、ワインドアップとセットは一球ごとでも変えても良いということです。
ご質問の「クイック投法」が「クイックピッチ」でないことは、「ボーク」または「不正投球」をコールされていないことから想像がつきます。「クイック投法」とは、走者の盗塁を阻止するために、前楽天監督の野村克也氏が考案した投法のようですが、自由な足をスライドするように投げることで投球時間を短縮しようとする投法だと理解しております。これは、オーバースローやアンダースローなどの投法と同じカテゴリーと考えて良く、投手は一球ごとにどの投法で投げようとも「不正投球」とはなりません。
ただし、大原則として打者への投球動作を起こしたならば、淀みなく完了しなくてはなりません。途中で停めたりするのは正規の投球動作ではないのは、ご存じのとおりです。

セットポジションで投球する投手は、必ず身体の前方でボールを両手で保持する姿勢で「制止」しなくてはなりません。これを怠った場合は、走者がいる場合は「ボーク」、走者が無い場合は不正投球で「ボール」を宣告します。走者がいる場合は、走者のスタートに影響を及ぼすことによる攻撃側の不利益を取り除くため「ボーク」がコールされます。一方、走者が無い場合は、打者が構え遅れたり、危険な状態となるため、攻撃側の不利益を取り除くため「ボール」がコールされます。もちろん、「今のボールの判定は、不正投球によるものである」ことを、投手にも守備側チームにも、観衆にも周知する必要があります。大リーグでは、走者が無い場合のセットポジションの制止については容認しておりますが、日本では通用しません。これは【8.01(b)原注の注1】に「我が国では適用しない」となっております。実際には、日本のプロ野球でも、怪しい投手は沢山いますが、黙認されているようですが、我々アマチュアは厳格に適用するべきと考えております。

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