走者二塁三塁の場面。選手もダッグアウトも審判員も集中し、緊張する場面である。
投手は、このピンチを脱しようとセットポジションから投球モーションに移行した。足が挙がり、打者に向かって投球しようとした瞬間、突然投球モーションを中断した。そして、右手でバックネット方向を指差す。球審が振り返り、バックネット前にボールを確認した瞬間、二塁方向から「ボーク」の声が聞こえた。
バックネット前のボールは、投球練習場からのボールであった。投手は投球モーションに入り打者方向を見た瞬間、視界にこのボールを確認してモーションを中断してしまったようだ。
機転を効かした球審は、守備側監督が出てくるのを制して四氏協議へ。
誰かが、バックネットのボールに気付いて「タイム」を掛けてくれていることに期待して協議したが、結果は誰もバックネット前のルーズボールに気付いていない。ゆえに、誰も「タイム」を掛けていない。
インプレイ状態で、投手が投球モーションを中断。立派なボークである。
がしかし、「中断」の理由が問題である。

バックネット前にあったボールは、投手が投球モーションに入ってから「いずこより飛んできたボール」である。投手が気付いたのであれば、本塁方向を見ていたはずの塁審三人は気付くはずである。本来であれば、塁審が気付きどのような状況でも「タイム」を掛け「ボールデッド」の状態にするべきである。少なくとも、投手と同じ視界の二塁塁審は気付かなければならない。その二塁塁審が「ボーク」を掛けては、何とも皮肉なジャッジになってしまった。

このような事例は、二度と経験することはないであろう。正にサプライズである。
同じ審判員が同じプレイに出会うことは無いであろうが、このようにルールブックの適用が困難なプレイの処理をしなくてはならない局面には出会うであろう。その時に、どのように処理できるかが審判員としての器量が試されるのであろう。そして、それを磨くことが「審判員」としてのレベルアップがなされることにつながる。

このようなサプライズプレイでは、まずは適用ルールを考えることが入口です。
今回の場合は、①ルールブックとおり審判員が「タイム」を宣告していないので「ボーク」を適用する、②守備側の不利益を取り除き、投球当時にリセットする、が考えられます。

<①の適用規則>
【2.79 タイム】正規にプレイを停止させるための審判員の宣告であり、その宣告によってボールデッドとなる。
【5.02 ボールインプレイ】球審がプレイを宣告すればボールインプレイとなり、規定によってボールデッドとなるか、または審判員が「タイム」を宣告して試合を停止しない限り、ボールインプレイの状態は続く。
【5.10 ボールデッド】(d)(注)後段 「タイム」が発効するのは、「タイム」が要求されたときではなく、審判員が「タイム」を宣告した瞬間からである。
【5.10 ボールデッド】(h)審判員はプレイの進行中に、「タイム」を宣告してはならない。

<②の適用規則(参考)>
【4.06 競技中のプレイヤーの禁止事項】(a)(3)ボールインプレイのときに「タイム」と叫ぶか、他の言葉または動作で明らかに投手にボークを行わせようと企てること。

今回の事例は、規則上は①を適用して処理することが正解である。②については規則上無理がある。しかし、残念ながら審判員もいくつかの間違いを犯している。「ブルペンの練習球がバックネット前に入った」が「タイム」コール無し。「投手が投球モーションを中断した」が、その時点で「ボーク」コール無し。

守備側からは、その点についての抗議があるであろう。プレイが中断されず投球され、ワイルドピッチやパスボールとなった場合、バックネット前にボールが2個ある状況が考えられる。そのような状況を避けるために、投手が「気を利かして」投球動作を中断したのであろう。

このようなアクシデント的な状況をルールブックだけで説明すると、感情論となり処理が難しい。特に少年野球や中学レベルのカテゴリーは、選手がルールを知らない場合が多く、純粋なだけに説明が難しい。そういうレベルだからこそ、起こるプレイではあるのだが。

コメント

nophoto
審判-X
2011年11月11日18:17

ファールボール様

野球に熱中されてるあなたが不思議に思えます。
何故に異国の彼方でも白球を追い続けるのか・・・。
私は燃え尽き症候群(?)でしょうか、今はスッキリとしない気分です。
とは言え球場に行けばワクワクするのですがね(笑)
息子の引退を機に少々悩み加減のヘボ審判員でございます。
このオフシーズンを如何に過ごすかにより来季の己が決まるのでしょうね、力まずゆっくりと過ごそうかと思いますが、夢中になられている方との接点として時折拝見させていただいておりますので今後とも宜しくお願い致します。
ちなみに同時期に手術をしたI氏も元気にしております。(大ヒントでしょ)

ファウルボール
2011年11月12日23:38

審判-X様
コメントを頂きありがとうございます。
息子さんが引退されたのですね。
一先ずは、お疲れ様でした。
私の場合は、息子が引退してからの方が面白味が出てきたのですが・・・。
異国の地に来てみても、野球少年はいます。
時間がありますし、他にすることもありませんから、長年培ったものを子供たちに還すのも良いかと考えています。
最近、この地に来たことは必然であったようにさえ思えます。
野球を通して、審判を通して、自分の居場所が拡がり、人脈が拡がっています。

実は今日も瀬戸内海を渡り、審判をやってきました。
後日談が書ければ、近日中に公開します。

時折、覗いて頂き、近況をコメント頂けるとありがたいです。

nophoto
sancom
2012年1月8日23:43

初めまして sancomと申します。

今回の「不利益の除去」について

適用規則は5.10(h)の前段であると思います、よって投球動作を止めたことによりボークを宣告する。

と言う所ですが、この行為が攻撃側から故意に投げられたボールであった場合はどうでしょうか?非常にまずい状態になります。

なので私は9.01(c)を適用し

そのボールが攻撃側から投げられたものである場合はボークとせず、ノーカウントでやり直し。

そのボールが守備側から投げられたものである場合はボークとして裁定する。

と言う風に思いますがこの裁定で如何ですか?

ファウルボール
2012年1月14日23:45

sancom様
コメント頂き、ありがとうございます。
御回答が遅くなり、申し訳ございません。
適用規則としては、9.01(c)ということで良いかと思います。
ただし、そのルーズボールの所有者によって裁定を変える事はしない、
というのが私の考え方です。
野球規則では、3.17によりグラウンド内に出ることが可能なプレイヤーなどを規制しています。日本では、投手のダッグアウト前のキャッチボールを認めていますが、規則上はNGです。WBCでは、大リーグの審判員に認めてもらえませんでした。つまり、規則上では「キャッチボールの球がグラウンド内でルーズな状態となることはあり得ない」のです。
規則上は、このような事態は「突発的なプレイ」と考えて処理することが望ましいと思います。
攻撃側か、守備側かと考えるよりも、「暴投などにより、バックネット前にボールが2個ある」という事態を未然に回避したと考えるべきと思います。
グラウンド内のキャッチボールは、各リーグや大会などによる特別規則や大会規約などで許している場合は、それに従うこととなります。
私は試合前に、グラウンド内のキャッチボールは最小限にするよう、両チームにお願いする事にしています。黙って寛容にしていると、ゴロキャッチや素振りをする選手が現れてきます。
以前は、ダッグアウト横からポールまでダッシュを繰り返し、代走の練習をしている選手がいました。
中学生レベルでは頻繁にありますが、大学野球もなかなかです。
昨年、神宮球場で東京六大学を観戦しましたが、グラウンドレベルに、両チームの選手が30人以上いました。
野球は楽しかったのですが、「審判の目」としては憤慨していました。

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