野球では、どちらのプレイを優先したらよいのか判断しようにも、ルール上の解釈が難しい事例が多い。
だから、事例を一つずつ検証して経験値を積むしかない。

残り少ない自分の審判人生で、経験することも見ることも無い可能性の方が高いであろう数々の事例を、整理し公開していくことが、少なからず多方面の同志・審判員の技術向上の一助になればと思う。
また、大層に大風呂敷を広げると大変なことになるので、本題に入ろう。

<問>
無死走者二塁三塁。ボールカウントは2b1s。次の投球を打者は空振りしたが、捕手のミットが打者の振ったバットに当たり、投球を捕球できず、ボールはバックネット方向へ。球審は「インターフェアランス(打撃妨害)」を宣告した。捕手は完全にボールを見失い、その間に三塁走者と二塁走者がホームインした。この間、ボールインプレイであった。

守備側監督は「打撃妨害の発生時点でボールデッドとなり、得点は入らず走者満塁で再開ではないか」と、9.02(b)により野球規則の適用に関する疑義を申し立て訂正するよう要請した。

一方攻撃側監督は6.08(c)により、「一連のプレイを生かし、2得点無死走者なし、ボールカウント2b2sで再開」を選択する旨を申し出た。
適用規則と解釈、ゲーム再開の状態を述べよ。

<適用規則>
【6.08(c)打者が安全に進塁できる場合】捕手またはその他の野手が、打者を妨害(インターフェアランス)した場合。
しかし、妨害にもかかわらずプレイが続けられたときには、攻撃側チームの監督は、そのプレイが終わってからただちに、妨害行為に対するペナルティの代わりに、そのプレイを生かす旨を球審に通告することができる。

<私の解釈>
日本語の悪い習慣である。主語が無いから、話が面倒になる。日本の「公認野球規則」はアメリカの「Official Baseball Rules」の翻訳版である。直訳すると、日本語として読み辛いため、日本語の文法に合わせて読み易くしている。それが仇になることもある。
この規則の主文の後にある「しかし」以降に主語を入れると、以下のようになり一気に解釈が明確になってくる。

「(捕手の)妨害にもかかわらず、(打者の)プレイが続けられたとき」

これを事例のプレイと比較してみる。
「捕手のミットが打者のスイングしたバットに当たり、捕手は打撃妨害をした。そして捕球が出来なかった」
「捕手が捕球できなかった」ことは「打者のプレイの継続」にはならないと解釈できる。
以上から、この事例の私の回答は「打者のバットにミットが当たった時点でインターフェアランス、その後捕手が逸球した時点でボールデッド、打撃妨害により打者に一塁を与え無死走者満塁で再開」

<規則委員の回答と師匠の助言>
捕手または野手により打撃妨害があった場合、投球がバットに触れたか否かに関わりなく「インターフェアランス:打撃妨害」となるのが大原則。
この妨害は、守備側のプレイの意図は無関係であり、発生した事象のみが優先される。
そして、妨害というミスを犯した守備側への救済措置はない。
妨害があったにも関わらずプレイが継続された場合、プレイが一段落した時点で「打撃妨害」をコールして措置を取る。
この際に、攻撃側監督のみがプレイの結果に対する選択権が発生する。
一連の流れは、攻撃側にアドバンテージを与えてプレイを流すこととなる。
この事例の場合は、難しく考える必要はない。
打者が振り出したバットに捕手のミットが当たったため投球を捕球できずボールを見失ったが、これは捕手のミスであり、打者に対する打撃妨害である。
ボールを見失ったとしても、ボールインプレイは継続する。
このため、走者は進塁が可能である。

この事例の結論は「打者のバットにミットが当たった時点でインターフェアランス、その後捕手が逸球したがボールインプレイ、二人の走者が本塁に達した時点でボールデッド。
打撃妨害によるペナルティとして打者に一塁を与え、二走者を戻し無死走者満塁の処置を取り、攻撃側のプレイの選択権を行使するかを待つ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ルールブックの言葉の合間にある疑念。些細な事例でも、条件を変えると難問になることがある。
現場では、短時間でジャッジを下さなければならない。一生審判員をやっていても出会わないような事例もある。
であれば、考える必要はないのか。それは違う。

一度経験すると、二度目は落ち着いてジャッジできる。サプライズばかりではない。アウト・セーフのジャッジでさえ、「最初」はある。
数を重ねるごとに落ち着いてくる。
いつか出会うであろう、珍プレイに対するジャッジを事例で経験すること。これが、事例検証の目的である。

今回も考え過ぎて間違ってしまったが、これだけ考え過ぎると、なかなか忘れないものだ。

コメント

nophoto
水道屋
2011年10月21日23:59

ソフトの審判が専門なのですが、たまに野球の審判もやってます。
似て非なる競技でありますため、両方の勉強をしてるのですが、それが仇になってしまうことがあるんです。
ソフトの場合、攻撃側が被った妨害はすべて「オブストラクション」であり、守備側が被った妨害はすべて「インターフェア(ランス)」とコールされます。
昨年やってしまったのが、ミットにスイングしたバットが触れたので「ディレードデッドボール」これはソフト特有のルールで、プレイが一段落するとボールデッドになりますよ というジェスチャーとともにコールしたまでは良いのですが、そのあと「インターフェア」をコールしてしまいました。
またその後の処置も、野球とは異なり、ボールデッドになった時点で攻撃側の監督に打撃妨害により打者の一塁までの安全進塁権か、プレイの結果を生かすかの選択を確認しにいきます。
確か野球は選択権がありますよってジェスチャーがありましたよね。
今日も勉強になりました。

nophoto
SMUC T・K
2011年10月23日20:20

こんばんは。
この間の公式試合にて初球審を勤めた時の私の判定は、『投球に対し、打者が空振りし、捕手がそれを捕球できず、スイング』と判定し、捕手がバックネットへ転がったボールを見失っているうちに走者3人が生還したという内容で、その判定に守備側の監督が『捕手のグラブに当たっただろ!!インターフェアで、1得点だけじゃないか!!』との抗議でした。私は、スイングしたバットにグラブが当たったのを目視したわけでもなく、音も聞いたわけでもありませんでした。四氏の協議を行い、捕手のインターフェアーは無かったと確認し、守備側の監督に説明したという内容でした。  今回のこの回答結果を事前に掌握していたなら、もっと納得いくように説明が出来たなと思い勉強になりました。 今回のケースは意外とこれからも良くあるような気がするので今後に役立てれそうです。

nophoto
隼人
2011年10月24日22:12

今回のケースは、打撃妨害は解りますが、打者を含めてアウトになった者がいない。また、打球が前に飛んでいない。はたして、監督の選択権があるのか。
私は監督の選択権はないと思う。

ファウルボール
2011年10月28日20:14

隼人様
コメント頂き、ありがとうございました。
打撃妨害が発生した場合、打者が守備側の妨害行為により「打撃行為」を妨げられたのですから、打者がアウトになることはありません。
打撃妨害にも関わらず打者が投球を打ち外野フライとなり、それを野手が捕球した場合、その時点で「タイム、インターフェアランス、打者は一塁へ」となります。同じケースで、三塁に走者がいてタッグアップし本塁に生還した場合でも、審判の処置は「タイム、インターフェアランス、打者は一塁へ、三塁走者は戻る」となります。この時に、監督の選択権が発生します。
本文にもあるとおり、打撃妨害があり打者がアウトとなった場合は、まずは打撃妨害の処置をとり、その後攻撃側監督に選択権が発生します。
無死走者二塁で、打者が妨害されながらもバント。打者は一塁でアウトとなったが、走者を三塁に進めた。審判は、打撃妨害により無死走者一塁二塁としようとしたが、攻撃側監督が一死三塁を選択する場合もあります。
ちなみに、この選択権は監督が申し出ることが必要です。審判員が選択権を促すことはしないのがルールです。
また、妨害を犯した守備側に選択権はありません。
当たり前ですね。

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