少年野球からプロ野球まで、どのレベルでもトラブルは発生する。それの大半が、審判員の裁定を巡る事例が多いと思われる。
では「トラブル」と聞いて、何を想像されるであろうか。その回答の多くは「ミスジャッジに基づく猛抗議」というイメージではなかろうか。審判員の立場からすると、何とも耳障りな言葉である。
それでは「ミスジャッジ」とは何を指して、そう呼ぶのであろうか。我々、審判員も人間であるがゆえに、当然間違いはある。野球の判定を「人間」がやることを認めている以上は、当然「間違い」は許容の範囲である。たとえば、スロービデオのコマ送りでなければ判らない様な「際どい一塁でのフォースプレイの判定」を、肉眼で瞬時に判断すること自体が無理なのである。それを、間違えたからといって責められることはないであろう。これが、見えるのであればオリンピックの100m走の順位を瞬時に判断できるはずである。
「ストライク・ボール」の判定も然りである。今年の夏、北京オリンピックの野球やソフトボールの放送に噛り付き、熱く声援を送っていた日本人が多いためか、「ストライクゾーン」の曖昧さが話題に上ったりもしていた。星野ジャパンの敗因のひとつに挙げた方々も居られた様である。
しかし、我々のように審判を、それも球審を経験した人間から言わせれば、「非常識も甚だしい」と一蹴されるのがオチである。
野球は二つのチームが争う競技であるから、すべての観衆や選手が納得するジャッジはあり得ないのである。「ストライク」を宣告された際に、攻撃側は不満を洩らし、守備側は喝采するのである。それを、攻守処を替えて交互に繰り返すのであるから、球審は確固たる信念を持っていなければやっていられない。球審のストライクゾーンさえ、変わらなければ良いのであるが、お互いのファンや選手は自分に有利なように見ようとするから始末が悪いのである。瞬間芸を、同じ基準で見続けなければならないのである。
北京オリンピックで星野ジャパンの初戦であるキューバ戦において、ダルビッシュ・有投手の投げた「外角低目のストレート」は見事であった。しかし「ボール」と判定された。ただ、それだけのことである。
私の経験から「ナイスボールはストライクにあらず」という事がある。確かに打者は手が出ない「ナイスボール」なのであるが、「ストライク」とはコールできない投球があるのだ。では何故であろうか。
答えは簡単である。あの高さやコースを含めた「範囲」を、何故「ストライク」と決めたのかを知っていれば、おのずと答えは導き出されるのである。
「ストライク」は審判が打者に向かい「良い投球だから打ちなさい」と促すコールである。投手にとって、あまりにもナイスピッチの投球は「ヒットになる確率が極めて低い」。こんな投球を打者に向かって「打て」とは言えないであろう。だから「ナイスボール、されどストライクにあらず」となるのである。こんな屁理屈は解説付でなければ判らないであろうし、憶える必要もないかもしれない。ただ、審判が「ボール」とコールした投球は「ストライク」にはならないという、当たり前のことを判った上で、テレビの前で唸っていただければ結構なのである。
審判が下したプレイに対する裁定を覆すことはできない。それが、例え「深夜のプロ野球ニュース」で事実が明らかになったとしても仕方のないことである。そんな番組で面白おかしく「鬼の首を獲ったが如く」、したり顔の解説者が能書きを述べるのは最低である。そこで吠えたところで、どうにもならないことは百も承知のはずである。
ルールブックには唯一「ルール適用の是非を問うための要請ができる」と書かれた条項がある。プロアマ問わず、各チームの監督たちは、これが「抗議権」であると勘違いしているらしい。
この条項で書かれている内容は、「今のプレイは野球規則の第○○項を適用するべきであろう」ということを議論してもらうために、「再度検討願います」と要請することができるだけである。これの条文の、どこをどのように読めば「抗議」などという愚行に行き着くのであろうか。
ちなみに、この条項は「9.02 審判員の裁定」の中に記載されている項目であり、審判員が判断し下された裁定は「最終結論」であることを認めた事項なのである。そこのひとつに、競技者側からの「要請」が付け加えられているのである。以下に全文を転載する。
審判員はもとより、競技者・指導者の皆様方には、是非とも理解して頂きたい重要な条項である。

9・02 審判員の裁定
(a) 打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチ、または控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。
【原注】 ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり、監督またはコーチがベンチまたはコーチスボックスを離れることは許されない。もし、宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる。

(b) 審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがその裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するように要請することができる。しかし、監督はこのような裁定を下した審判員にだけアピールする(規則適用の訂正を申し出る)ことが許される。
【注一】 イニングの表または裏が終わったときは、投手および内野手がフェア地域を去るまでにアピールしなければならない。
【注二】 審判員が、規則に反した裁定を下したにもかかわらず、アピールもなく、定められた期間が過ぎてしまった後では、たとえ審判員が、その誤りに気づいても、その裁定を訂正することはできない。

(c) 審判員が、その裁定に対してアピールを受けた場合は、最終の裁定を下すにあたって、他の審判員の意見を求めることはできる。裁定を下した審判員から相談を受けた場合を除いて、審判員は、他の審判員の裁定に対して、批評を加えたり、変更を求めたり、異議を唱えたりすることは許されない。
【原注】 ハーフスイングのさい、球審がストライクと宣告しなかったときだけ、監督または捕手は、振ったか否かについて、塁審のアドバイスを受けるよう球審に要請することができる。球審は、このような要請があれば、塁審にその裁定を一任しなければならない。塁審は、球審からの要請があれば、ただちに裁定を下す。このようにして下された塁審の裁定は最終のものである。
 ハーフスイングについて、監督または捕手が前記の要請を行なってもボールインプレイであり、塁審がストライクの裁定に変更する場合があるから、打者、走者、野手を問わず、状況の変化に対応できるよう常に注意していなければならない。
 監督が、ハーフスイングに異議を唱えるためにダッグアウトから出て一塁または三塁に向かってスタートすれば警告が発せられる。警告にもかかわらず一塁または三塁に近づけば試合から除かれる。監督はハーフスイングに関して異議を唱えるためにダッグアウトを離れたつもりでも、ボール、ストライクの宣告について異議を唱えるためにダッグアウトを離れたことになるからである。

(d) 試合中、審判員の変更は認められない。ただし、病気または負傷のため、変更の必要が生じた場合は、この限りではない。

コメント

nophoto
2008年9月27日19:52

ファウルボール
2008年10月2日21:33

何が理解できないのでしょうか。コメントを頂けるとありがたいです。

nophoto
塁審見習い
2008年10月7日11:11

毎回、参考にしています。
五輪での野球は「ストライク・ボール」審判のジャッジに云々、かたや
ソフトでは負けた試合でもチームからはそんな事は無かったような気がします。
マスコミが野球の敗因の一因としてジャッジをあげているのなら…ですが
チームの関係者が「ジャッジ」云々言っているのなら悲しいです。
少年野球をしていた時は審判のジャッジは絶対、自分で判断するな
と何回、何十回と教えられました。…最近の自分を擁護しているのかもしれませんが?
「新人と三塁」を拝見し少しですが塁審として集中することが出来るようになりました。
「一球ごとにストライク・ボール」をみて一筋の光が見えました、大変有難かったです。
今まではいい場所で見ている父兄的な状態でした、分かっているけど
集中していない自分がいて塁審をするだびにもやもやが膨れあがってきて…やりたくねー
と思ってましたが「審判居ないと始まらないし~」と思いなんとかやってました。
これからの課題は、ハーフスイングと一拍おいたジャッジ(タイミングだけで判断してしまうので)

nophoto
ファールボール
2008年10月11日19:36

今日、久し振りに二塁塁審が割り当たりました。球審に立つ機会が多いため、メカニクスの基本を忘れがちになっている自分に気付きました。まだまだと反省しきりの一日でした。審判は「経験」に優る教科書はありません。実戦の中で勉強することがたくさんあります。机上で予習・復習する事は大切ですが、実戦ではハプニングやサプライズが頻繁に起こります。また、基本に立ち返り、頑張ろうと思っています。
ジャッジのコツとしては、「アウト・セーフ」を予想しない事です。ボールの動きや野手の動きを予測しておく事は良いのですが、判定の結果を予想しない事です。結果を「決め付ける」ような思い込みが、大きなミスジャッジを生みます。最後まで、しっかりとボール・野手・走者を見ることです。
私も、球場にいる私以外の人が「セーフ」と思っている本塁のクロスプレイを、「アウト」と胸を張ってジャッジした事があります。これも、「思い込み」からくる「決め付け」によるミスでした。
落ち着いて、ゆっくりとジャッジすることを心掛けてください。
自分自身で、「遅過ぎる」と感じるぐらいで丁度良いと思います。

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