誰にでも「新人」と呼ばれる時期はある。どんなに練習試合などを経験したとしても、公式戦はまったくの別物である。また、別の組織で経験を積んでいたとしても「郷に入りては郷に従え」の格言とおり、組織独自の決り事があり、やはり「新人」と同じ心積もりが必要となる。野球のルールブックは同じであるのに、まったく面倒な話である。
「新人」にとっての公式戦は、緊張との戦いであることは容易に想像できるであろう。どんな局面でも、初めてのことが多く、私も心臓の鼓動が聞こえてくる想いであったと記憶している。
そういった意味でも、「新人審判員」は三塁塁審を担うことが多い。理由は、ジャッジの回数が少ないことと、フォーメーションの動きが単純であることが理由とされている。しかし、「本塁に一番近い塁」という視点からは、最も重要な塁審とも言える。一塁のアウト・セーフの微妙な判定には、両チームとも許容範囲が広いが、三塁は得点に絡む可能性が高いだけに、そのジャッジには神経質になる。
スコアリングポジションとしては二塁も重要ではあるが、三塁に走者が行くことで得点パターンが圧倒的に増えるのは周知のことであろう。そういった意味でも、三塁でのジャッジは試合の趨勢に支配的であると考えても過言ではない。
ただ、三塁のジャッジに特殊性はあるのであろうか。「アウト・セーフ」のジャッジは、フォースプレイとタッグプレイであり、これはどの塁にも共通することである。逆に、一塁に比べればフォースプレイは圧倒的に少ないし、盗塁のジャッジが多い二塁に比べればタッグプレイも少ないといえる。一試合のうちに、一度も「アウト・セーフ」をコールしないことも稀ではない。ジャッジしたのは「フェア・ファール」だけなどという試合もある。
フォーメーションでは、三塁塁審はキーマンになる。特にクロックワイズメカニクスが発動される場面では、三塁塁審が動き出さなければ、他の審判は動けない状態となる。ただし、これも走者無しの場面で外野に飛球が飛び、二塁塁審が動いた時がほとんどである。このケースで三塁塁審は二塁のカバーリングに走ることができれば、「新人」としては満点と考えて良いであろう。私などは、何故そのような動きが必要なのかを理解することもなく、「新人」の時は走っていたと記憶している。この動きにより、他の審判員も含めて「時計回り」に動き出すことからクロックワイズと呼ばれているのであるが、それを知ったのは、審判員に興味を持って勉強しだしてからである。
これらのことから、「新人」の審判員は三塁に配置されることが多い。ここで、「アウト・セーフ」や「フェア・ファウル」などを無難にこなし、審判員としての姿勢や態度、そして意欲を見て、その後他の塁に配置されるのが通常のパターンである。
私などは三塁と一塁を繰り返し経験させてもらってから、ある重要な試合で初めて二塁を任され困惑したことがあった。試合経験はそれなりにあっても、初めての塁はとにかく緊張するものである。フォーメーションのマニュアルに囚われ「間違った動きをしないように」という想いが強くなりやすく、肝心要のジャッジへの集中力が落ちることに気付かずにいる場合が多かった。何度か、経験を積むうちにフォーメーションの意味を肌で理解することが出来たときに、初めて余裕が生まれて来た様に思う。
そうすることで、周囲の色々な事が見え始めるのである。
最近、「どうしたら塁審をやっていて一球・一球に集中できるか」のコツを見つけた。球審は、一球ごとにジャッジする可能性が高いため、その集中力により多大なエネルギーを費やす。塁審は、一球ごとに集中しようと考えてはいるが、なかなか出来ないのが現実であろう。「新人」の時などは緊張感の方が先になり、集中力を妨げているのであろう。よく、ハーフスイングのリクエストをしているのに「我関せず」の姿勢でいる「新人」がいるが、正に集中力が欠落しているのであろう。
これを克服するコツを見つけた。「新人」の方々は、ぜひとも試していただきたい。それは、自分が立つ位置から、一球ごとに「ストライク・ボール」を判定することである。一・三塁の塁審は高さしか見えないかもしれないが、捕手の構えなどからある程度想像は出来るであろう。もちろん、球審のジャッジが最優先されるが、自分なりにジャッジを繰り返すことで、本塁付近に集中していることが可能となる。
この心境になるまで、150試合の公式戦経験を費やしてしまった。

コメント

nophoto
デビル
2008年9月19日19:59

審判を目指しているものです。いつも参考になるブログで勉強になります。
野球は続けていたものも、今シーズンから審判の方にお手伝い程度でやらさせていただいてます。三塁の塁審がほぼですが、なかなか動けなく、クロックワイズメカを気にしていると、ジャッジがおろそかになります。まだまだですが、、、
来シーズンも頑張りたいと思っています。清田の朝野球と子供少年野球で勉強中です。(勉強中とは選手に悪いのですが。。。)
今後も楽しく勉強させて頂きますので、宜しくお願い致します。

ファウルボール
2008年9月19日22:51

コメントありがとうございます。私も、まだまだ勉強することが多々ありますが、日々前進の気持ちで、楽しみながらやっています。メカニクスやジャッジにミスがあっても、くよくよしても仕方がありません。それも野球と割り切りましょう。人間の目でジャッジし、一喜一憂するのがベースボールの原点です。頑張りましょう。

nophoto
山形太郎
2008年10月8日8:41

 いつも大変参考にさせて頂いております。
先日子供の試合の主審での1プレイで質問させてもらいます。
ボックス内で自打球が打者に当たった場合はファールとなりますが、捕手に当たってフィールド内に転がった場合の判定はどうなりますでしょうか? またボックス外のファール域で捕手の足に当たってフィールド内に転がった場合の判定は?
一瞬のレアなプレイでは正直何があったのか理解できない事があり選手たちには申し訳なく思っています。
もう1プレイでも困惑してジャッジしてしまいました。
投手がワインドアップでの投球動作での事、自由足を上げて投げようとしたときにバランスを崩して足を一度地面についてしまった状態からそのまま再度足をあげて投球をしたのでありました。
1瞬何が起きたのか判断できませんでしたが、投球が良かったので大きな声でストライクでジャッジしてしまいました。両ベンチからはクレームも無くそのままプレーが進行しました。
終了後の内輪話でやはりボークではないかと。
自分ではとっさにおかしいとは感じたのですが連続動作であったのでストライクを判定した様におもいます。 せめてボール判定にしておけばよかったのかなとも思っています。
2つのプレイについてご教授お願いいたします。

nophoto
ファウルボール
2008年10月11日19:23

コメントありがとうございます。私も色々な事に疑問を抱き、諸先輩方や同僚と議論を交わす努力をしております。2つのプレイは、ともに少年野球ではありがちなプレイですね。次のような考え方で良いと思います。① 守備側のプレイヤーはフェアゾーンにいなくてはなりません。守備側の野手がファウルゾーンにいた場合に対するペナルティはありませんが、審判員はフェアゾーンで守備に就くように促さなければなりませんが、捕手だけは例外です。捕手だけは、唯一ファウルゾーンにいなくてはならないプレイヤーということになります。打球が捕手を直撃してしまった場合は、他の野手がファウルゾーンで身体またはグラブなどに当ててしまったときと同様に、「ファウルボール」となります。ただし、打球が最初に捕手のミットまたは手に触れた後、地面に触れる前に捕球した場合は「ファウルチップ」となり、スリーストライク目であれば三振、それ以外は空振りと同じでありインプレイとなります。もちろん落とせばファウルボールですから、ボールデッドとなります。ストライクのコールが速いと、「ストライク」とコールしてから捕手の落球に気付き、おもわず「ファールボール」と訂正することとなります。空振りなどは、慌てずに捕手がボールを投手に返球するタイミングぐらいの「ストライク・コール」で大丈夫です。2.32と2.34を参照して下さい。② 投手は打者に対する投球動作を開始した場合は、中途で止めたり、変更したりせずに投球を完了しなくてはなりません。これはワインドアップもセットも同じです。投手がバランスを崩して、一旦足を付いてから、ふたたび投球モーションを起こし投球した場合は、不正投球となりますから、走者がいたなら「ボーク」、走者がいなければ「ボール」となります。踏み出した足を再び挙げた事になりますから、投球動作の変更に当たります。この投球を「ストライク」と判定した場合は、著しく攻撃側に不利な判定ということになります。私見としましては、少年野球の場合は投球動作などの基本を理解していないことと、今回のように体力不足からバランスを崩すことも考えられますから、バランスを崩した時点でボールデッドにし、最初からやり直させるのが良いかと思います。私が所属する中学シニアでは、投球動作の未熟さが原因と考えられる「ボーク」は、一度目は「注意」することとしています。ただし、走者を騙そうとすることが明らかな場合は、小学生といえども厳しい態度で臨むことがよいと思います。

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