今年のオフシーズンは、MLBのミッチェルレポートによる薬物疑惑やパウエル問題、巨大軍団の情けなく無策なFA戦略など暗いニュースが多かった。高校生の不祥事による対外試合禁止などもあり、その都度コメントを書こうか否か迷っている。私も聖人君子ではないので、汚いこともするずるい人間であるにも関わらず、このような事件に対するコメントを書けば、辛辣になることは明らかである。自分自身、それがわかっているがゆえに書かずにきたのである。
大リーガーにとっての筋肉増強剤も高校生にとってのタバコや酒も、根っこは同じなのであろう。選手の関与しないところで、ファンや保護者などが「自分たちだけは大丈夫」「自分たちだけが強ければ良いんだ」「みんな、それなりにやっているんだ」という風に考え違いをしていたり、贔屓の引き倒し的な溺愛感情から真実が見えなくなっていたりしたのであろう。そこには自制心も自尊心も働かず、大きな流れに身を任せる状態となる。
米ソが冷戦状態であった時代に東欧諸国では、国勢を世界へ示すために「スポーツ」が使われた。オリンピックや世界選手権などに照準を合わせて、選手を育成したのである。長期ビジョンに立って選手の卵を発掘し、スポーツ科学の粋を集結して選手を育て上げ、「金メダル」を奪取しにいったのである。日本でも今盛んに叫ばれるようになった「メンタルトレーニング」を、東欧諸国では30年以上も前から実施されていたのである。
感情をコントロールした選手の表情を、当時の日本のアナウンサーは「ロボットのように冷たい目でプレイする選手」と紹介していた。感情をコントロールすることは、冷静になることであり、心が冷めることであるがゆえに「人間が冷たくなる」となると考えるのであろう。実に短絡的な考え方である。そんな認識しかないから、日本のメンタルトレーニングは遅れに遅れた。元々、日本人は「根性」とか「魂」などのメンタル面の強さを求める国民であったはずである。だから、闘う武器がなくなっても戦争を最後まで止め様としなかったのである。竹槍で戦闘機を突き落とそうと考えるのであるから、何とも悲しくなってしまう。
そんな東欧諸国では、心の鍛錬と併せて身体の増強も図られていた。それが、筋肉増強剤の原点だと言われている。科学技術を駆使して、人間をサイボーグ化して行くが如く「冷静沈着で筋肉隆々」のスペシャリストを作っていったのである。これはもう、代理戦争であったのであろう。実際に全面戦争を起こせなくなったがために、「オリンピックに勝つ」ことが「祖国の勝利」と考えたのである。
しかし、これもドーピングという厚い壁により「悪の代表選手」にされてしまった。前回のオリンピックに使用可能であった薬物が、ある時から突然「違反薬物」になってしまうのである。下手をすると、風邪薬が興奮剤とされるなど、本当に必要な薬が「違反薬物と同じ効果」を保有していることで、「違反薬物と同じ裁き」を突きつけられる理不尽が、幾度と無く選手を悩ませてきた。
ドーピング撲滅の旗頭になっているのは、「スポーツマンシップに則り正々堂々と戦う」というスポーツの根源と、違反薬物摂取による後遺症から選手を守ることなのだろうが、本当に薬物を摂取した選手を裁くことが撲滅につながるのであろうか。実際に、中国や東欧諸国では、今なお薬物の研究はされており、ドーピング検査で陽性とならない薬物の研究がなされているとも言われている。
スポーツから「勝ち負け」を無くしてしまえば、ただのレクレーションとなってしまうが、勝負にこだわるがゆえに、選手寿命や名声を失い、命までも削るというリスクを背負っているのも確かであろう。そこには、スポーツとレクレーションに共通の「楽しむ・エンジョイ」ことが失われているのである。スポーツマンシップとは、何であろうか。それはスポーツを楽しむ心ではないかと考えてみると、スポーツを楽しむためには「不正なしでやろう」とする姿勢が現れてくるのである。
戦争にも紳士協定のようなルールはある。人間の尊厳に関わるマナーがあるのだろう。
今のスポーツは、このルールやマナーすら欠落してしまっているのであろう。
先日、サッカーのある試合で審判員のレフリングが問われて、選手や観客が騒ぎを起こした事件があったようだ。その試合のダイジェストだけを観たが、あの判定で何故観客までもが興奮するのかがわからないし、協会側がその審判を何故裁くのかも解らなかった。
伏線は色々とあるのであろう。サッカーというスポーツにも「ルール適用の常識」があるのであろうが、その辺りは知らないから多くは語れない。しかし、あの荒れた試合で、あの最後のペナルティキックに関する判定を下した審判員には敬意を表したい。競技は違えども、レベルも違えども、同じ審判員としてエールを送りたい。あの荒れた試合の責任は、すべて選手にあるのである。協会も監督もコーチも観客も、勿論審判員も関係ない。試合を楽しむはずの選手たちが、勝負に拘ったがゆえに犯した小さなマナー違反から始まったことなのであろう。そんなことに、審判員は絡まれたのである。
早期の復帰を期待している。

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