石ころ

2007年11月3日
手稲山にも「白い物」が舞い降りてしまった。あの「白い物」が無くなる季節が訪れるまで、審判活動も冬眠状態である。長いインターバルを利用して、ルールの勉強や今年の反省をすれば良いのであるが、なかなか難しい。審判技術は経験が一番と感じているだけに、実戦から離れることの危機感の方が強い気がする。
とは言え、オフシーズンになったのは現実であるから、この期間を有効活用することを考えようと思っている。シーズン中、気になっていたキーワードを中心に紹介していきたい。

「審判は石ころ」と同じと言われる。つまり審判に打球や送球が当たっても、地面にある「石ころ」に当たったのと同じで、プレイは継続するという意味であろう。
プレイヤーやベンチおよび観客は、毎試合起きているこの事象に気付かれていないことが多いと思われる。球審をやっていると、打球や投球が当たることが日常茶飯事である。打球は、球審に当たった時点で「ファウルボール」となり「ボールデッド」であるから、試合の流れとは関係なく進められるが、当たり所によっては実に痛い。球審はマスクやプロテクター・レガース・ファウルカップなどを装着し、かつ捕手の後ろに立つことから、大部分が保護されているように思い込んで立っているが、そのような打球に限って、何もつけていない箇所を直撃するものである。これには、球審の立ち位置との関係もある。以前にも書いたが、球審の立ち位置は「スロットル・ポジション」が主流になっている。「スロットル」とは「隙間」の意味であり、捕手と打者の間に立つことが基本となっている。つまり、打者のインコース側のホームベース端部が球審の身体の中心に来るように立つのである。これにより、一番判定の難しいアウトコース低目が見えるようになり、またインコースの際どい球筋が見えることで、極端なインコース攻めを抑制できると考えられている。投球の組立の基本である「インハイ・アウトロー」を正確にジャッジするために、良く見える位置に立つことが基本となる。ところが、日本のバッテリーの攻め方の常套手段である「困った時のアウトコース」というの手段が、捕手をアウトコース寄りに構えさせるため、球審の身体は「捕手に隠れる」どころか「投手から丸見え」状態となることがしばしばある。例え、防具を装着している箇所に当たっても、その衝撃は「当たったものでなければ分からない」ぐらいの強さと痛さである。
このようなことを書くと、「球審は痛そうだから」と敬遠する方が居られるかもしれないが、それは私の本意ではない。この「痛さ」と引き換えにしても、お釣が来るほど球審は面白いのである。球審の面白さを体験すると、この「痛さ」も許せるし、この「痛さ」が無いと物足りない気がしてくるものである。多少大袈裟ではあるが、この「痛さ」を許容するために、私はバッグに「湿布薬」を忍ばせている。

ファウルボールが球審に当たるケースは、その「痛み」さえ許容できれば試合展開には支障を及ぼさないが、問題となるのが「投球」である。一番多いケースは、投球がワンバウンドになるぐらい低く投じられた場合である。高校野球レベルの捕手ともなると、身体つきも大きく技術も高くなるため、そうそう後ろへ逸らすことはないが、シニアレベルでは文句を言いたくなるほど未熟な捕手もいる。低目にワンバウンドになるような投球をした投手の未熟さもあるが、大抵の捕手は「低目に投げろ」と指示をして低く構える傾向が強いにもかかわらず、ボールを後方へ逸らすのである。記録上は、ワンバウンドしていれば暴投(ワイルドピッチ)であり、そうでない場合は捕逸(パスボール)となるケースが多いが、捕手の後方にボールが行くことに変わりはなく、そこには球審がいるのである。捕手のミットや身体に触れてから後方に逸れる分には良いのだが、まったく触らずに直撃する場合がある。これも「痛い」が、打球の場合はファウルボールであったが、投球はインプレイである。走者がいれば、当然次塁を狙うであろう。捕手も慌ててボールを処理しようとする。球審に当たったために、捕手が走者の進塁を阻んだり、逆に逸らした方向が大きく変わり捕手が見失ったために大ダメージを受けたりと様々な結果が起こりえるのである。前者は攻撃側からしてみれば、捕手が逸らした瞬間に当然進塁できると考えるであろうし、後者は捕手が見失わなければ、余計な進塁をされなかったと考えるであろう。つまり「球審が妨害をした」と感じるであろう。
しかし、「審判は石ころ」である。
プレイヤーやダッグアウト、そして観客の「球審に当たって流れが変わった」という雰囲気に晒されながらも、毅然としていなくてはならない。実は、投球が当たって痛いにも拘らずである。
これも、人間がプレイし、人間がジャッジする「野球の一面」である。

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