プルアウト

2007年8月21日
球審の基本動作に「ストライク」の姿勢がある。基本は、「右手拳で、ドアを力強くノックするように」と言われているが、時折勘違いをして「手の甲」でノックしている人がいる。確かに「ドアをノック」する場合、手の甲で「コンコン」とノックする方法もあるが、「ストライク」の場合はドアを「ドンドン」と叩くイメージであろう。教え方の問題もあるが、私は諸先輩から「金槌で頭の高さの釘を叩くようなイメージ」と教えられた。

球審をやり始めの頃は、プロ野球の球審のジャッジの影響からか「オーバー・アクション」に憧れた。球審をやられた方は分って頂けると思うが、「格好良く」ジャッジしたいという願望が、少なからず心の奥底にある。「審判が目立っては駄目だ」と分かっていても、「格好良く」ジャッジしたいと考えてしまう。
審判2年目ぐらいの時に、審判について色々とご助言を頂いていた大先輩のアクションを見て感激し、どうにか盗もうとした。まずは練習試合などで、盛んにやってみては周囲の反応を窺い悦に入っていた。まあ、実際に選手も観衆も野球を観ているので「審判のアクション」などは見られていないことが多いことと、毎回毎回大袈裟な動作をしていると効果が薄れることもあり、反響は思ったほどではなかった。
私が採用していたオーバー・アクションは「プルアウト」と呼ばれているジェスチャーで、見逃し三振の際に「左腕を伸ばし右腕を引く(弓を引くように)」ポーズであった。この「プルアウト」には横向きバージョンと正面向きバージョンがあり、私は正面向きバージョンであった。
この「プルアウト」と双璧なのが、見逃し三振の際に構えた姿勢から右腕を大きく振り上げ左側に振り下ろす「パンチアウト」というポーズである。
このようなオーバー・アクションは、最近では日本プロ野球の球審も採用している方が多くなってきた。それを観察していると、「メリハリ」の重要性を再認識する。
そういえば昔から気になっていたのだが、ストライクコールの時に「腕を上げてある方向を指差す」ポーズがある。これは「射抜き」と言われており、ただ横を向く場合や、ステップを踏み一呼吸置いてから「ストライーーク」とコールする場合などがある。観客席から観ると「拳銃で射抜かれたように見える」ことが由来のようである。いかにも、拳銃社会のアメリカらしい表現であろう。
さてあれは、一体どこを指し示しているのであろう。それぞれのダッグアウトを指差しているようにも思うが、観客席を指しているようにも見える。「ストライク」の意味は「いい球だから打ちなさい」と言うことから考えると、バッターの積極性を促すように攻撃側のダッグアウトを指差しているのかもしれない。そうなると、回の表と裏で指し示す方向が変わることとなり、これも面白いかもしれない。

私の「プルアウト」は昨年から姿を消した。理由は色々とあるが、大先輩から「オーバー・アクションは控えたほうが良いよ」と言われたことが直接の理由である。その時、大先輩は「何故だか分かる?」とも付け加えることを忘れなかった。「何故ですか?」と聞き返すと「学生野球でしょ」と一言。
もうひとつの大きな理由としては、「プルアウト」の動作をするタイミングを考えると、捕手がキャッチした瞬間にアクションするのが格好良く見える。つまり、「バシッ、ストライク」のタイミングである。ところが、このタイミングだと投手の投げたボールを「捕手のミットまで」見届けているか、という疑問が湧いてくる。ボールを投手の手から捕手のミットまで、トラッキング(目だけでボールを追う基本技術)し、「ストライク・ボール」の判定を下し、コールするという一連の流れを省略しているようなタイミングとなっている。
「プルアウト」自体が「間」のないジェスチャーであるから、流れの省略は否めないであろう。判定に絶対的な自信が在る訳ではない、経験浅いアマチュア審判員が、格好付けの為だけに「オーバー・アクション」をすることは間違いであることに気付いたのである。

今年、高校野球を観戦していて、こんなことを感じた。「オーバー・アクション」でなくても、「コールの間」や「ジェスチャーの強弱」で十分に「格好良いストライクコール」ができるな、と感じるようになった。そして、平素な判定動作も基本が出来ていれば、十分に格好が良いなと思えるようになってきた。

確かな技術が身につけば、「パンチアウト」や「プルアウト」のジェスチャーは可能なのであろう。それには、基本が重要なことは言うまでもない。
さて、私の「プルアウト」が復活するのは、一体いつであろうか。

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